7.熱愛発覚中 2 / 2
その小窓は変容のためのポータルで、聞くとやはり簡易のそれであった。なるほどそうなら機密処理の理由も分かる。出入りを変容しなければ消滅してしまう、それほど強くこの世界の何かを示すものなのであろう。だからこそ叡智はコンテンツの閉鎖を決めたが、土地の一画ともなれば歴史を示唆して当然。しかし機密処理されていたことを考えれば、螺子に押し込めるほどの熟成がなく、ならば、ポータルを設けて惑星にと、そういうことか。
ポータルに際して緩衝はまるでなかった。夢の中で目覚めるように土地にのみ込まれていった。刻の定められた散策に決まりはなかったが、土地を取り囲む木々は思いのほか険しく、足を取られた。差し迫る刻がいくばくかと気をもんだが、黄の地に踏み入ってからは歩に迷いはなかった。行く先に家が現れたのだ。見落としようのないそれは、不思議なことに、上から見たときには影も形もなかった。しかしそこにあるとなれば興味をそそられる。なにやらふわふわする黄の地を全力で進むと程なくしてその家に到着した。窓とおぼしきものに手を添えると、連なるそれぞれが簡単にはけ、私は家に迎え入れられた。家の中央には大きな古いベッドが置かれ、初老の人が腰掛けていた。その人は熱心に書物を読んで、時々鳥の声に顔を上げたが、私には気づかなかった。
近づくと、その人は右から左へ、はたまた左から右へ、そして前後へとゆらゆら揺らめいて、その美しい姿を様々に立ち上げた。立ち上げては霞み、森の内奥では鳥が鳴いた。すると立ち上がる美しい人の全てが、お山の夏はうるさいね、とハーモニーを奏でた。夏というのが季語だというのは分かったが、私が木々としたものが山であることは後々資料を読んでから知った。私は揺らめくその人のうちの誰か一人でもと手を伸ばし、統べる時間であることに気づいて、触れられぬと手を引っ込めた。無数のこの人がこの家に束ねられているのだ。そうして私は散って行った私の影を想った。
美しい人を住まわせる家と、家を抱き込んだ土地に魅せられて、私はこの土地を落札したわけだが、よくよく資料に目を通すと、この土地に家などなかった。厳密には家があったかもしれないと記されているだけだ。しかしながら、この土地の一画は見たいものを見せるといういわくもあって、私の見た家が、資料にあるその家の残像なのか、私の見たいものだったか定かではない。
「ではこの中の砂は、その土地の?」
主人は目を丸くして、自分が作ったものをまじまじと見た。
「作らせていただきながら、一体これが何なのか分からなくて」
「懐古趣味な代物を作らせたね」
いえ、と主人は懐古を打ち消して、それでも先を求めた。答えて装置であることを告げると、分かったのか分からないのか、私を真似て指先をはじき、砂を落として時間を計った。すると部屋の隅に身を潜めていた影がゆらゆらと姿を現した。
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