8.MY FEELISH HEART 2 / 2
黙っていると、娘はうんとうなずいて、窓の外に広がる落ち葉を指さした。その落ち葉はどこまでも黄色くこの家の周りをぐるり覆っている。まるで、この家がスポットライトを浴びるような、明るい雰囲気をもたらしているが、この地に木は生えない。その木の生えない全体に黄色い落ち葉が厚く床を敷いているのだ。ぼんやり歩くと、うっかり足を取られる。
「子供の頃、雨がたまると落ち葉になる。たまった落ち葉はふたになるって、そんなことを母は言っていたんです。じゃあ落ち葉は雨なの? って、聞きました」
込み上げるものがあるのか、娘は言葉をのみ込んだ。それからしばらくして、にこりと笑った。
「お母さまはなんと?」
娘はふふっと声を立てた。
「どう思う? ですって」
私たちは笑った。
「楽しい方だ」
「やっぱり、そう思います?」
私はうなずいた。
「それで、いつだったか、私が結婚する前だったと思うんですけど、落ち葉の季節にまたその話になって、懐かしくてまた聞いたんです。そしたら、」
「そしたら?」
娘は再びスツールから立ち上がり、窓辺に立った。今度は落ち葉を眺めただろう。
「質問には答えずにふたの話をしたんです」
いつしか私もスツールから立ち上がり、娘に並んで落ち葉に目をやった。
「ふたは開くことと、開かないことをかたどり、ふたという意味を保っている、って母は言いました。それなあに?って、聞いたんですけど、内緒って笑ったんです」
私たちは黄色い落ち葉の一枚一枚を丁寧に読み解くように故人の面影を追った。
「ここで数日を過ごしたら、母が話していたのはもしかして、この落ち葉のことだったんじゃないのかなって」
娘は言葉を詰まらせるとひとしきり泣いて、私は迷ったが娘の肩に手を置いた。そのとき鳥が鳴いたかどうかは分からなかったが、いつかどこかで出会ったような何かがやって来て、それがそのまま答えだろうと告げた。
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