4.IT WAS YOU 1 / 2



 うさぎの着ぐるみを着たうさぎに玉手箱をもらった。この箱は封印されております。満月の晩にお迎えに上がりますので、決して開けず、大事に持っていて下されと、うさぎは言った。封印された玉手箱は、けばけばしく装飾されたふた付きの箱に入っていて、その丁寧にして痛々しい厳重さが疎ましく、うさぎが去ってのち納戸に運んだ。

 あまり物のない我が家にあって、納戸はそこだけ物が溢れた場所だった。正面に窓が一つ。左右が一間ずつ押入れとなっているが襖はない。ちょうど左の上段にも、右の上段にも箱が収まるスペースがあり、どちらに置こうか悩んで、どちらか一方に置くのははばかられ、バランスを崩してはならぬと、取り出した方の箱を右に、箱を入れていた箱を左に置いた。置くというよりねじ込んで、周りの荷物に挟まれゆがんでしまいそうだったが、うさぎに義理立てるものもなかったのでそのままにした。しかし強いて言うならば、うさぎが置いていった懐中時計は重宝した。月を見上げ日を数えなくて済む。そのように定められた時を特定の時間にしか確認できないのは、一方向に流れる時を分岐するような歯痒い中州を作る。こちらではこれこのように流れていると思っていたが、そちらではあれあのようにもいかようにと瀬を早んで、割れても末に逢はむとぞ思うのだから歯痒き蝶の瞬く間に間に蝶の夢。ままそれもよしとして、月見うどんをすすった。卵は半熟がよいよい。

 半熟卵は蜂の子の餌になるだろうか。窓辺に目をやると、女王蜂が何往復目かの餌を運んでいた。数匹が越冬し、我が家の周りで巣を作る。ともに越冬しても、女王蜂が一つの巣を共有することはない。一匹の女王蜂に対し一つのコロニーが適するのだろう。それともそれは何かの示唆なのか。仕事柄つい記号を模索する。天の川には砂金があってそれをさらう、そんな仕事だ。この世を螺旋に乗せることができると気が付けたのも記号をさらうという模索があったからと言える。しかしこの世が螺旋だけで成立できるものでもないと、考えれば至極当然に分かるわけで、真っ当に事物を見れば全てが地続きのわけなく、それが分かればそれとて地続きと思考することもでき、そもそもの主体からすれば、瀬かるる川とて基盤となる流れの上に左右を割り振るという、概ね三点を置く。それを客体への移行と考えるから初めの単位が分からなくなるのだが、それもまた硬めの月見うどんということで、手堅いこの世を生産している。

 開け放った窓と背丈を窓にまで伸ばした草との接点を考えた。蜂にとって無害で暖かな季節というところか。雨もまだ、気温が上がるのもまだのこの季節が、女王蜂にとっての踏ん張りどころでもある。蜂の子らが孵れば一周、二周と輪も広がり、盤石なコロニーは、外敵でもない限り大きくなり続ける。時に壁面を覆うほどの蜂房は、それでも一匹の女王蜂に対し一つのコロニーを妥当とし、女王蜂自身が客体を産み落とす主体として、場とその空間であるコロニーをもって一単位と完結させるとき、主体を内包とすることができる。これをもって客体を考えれば、中洲の色味は変わる。月見うどんのつゆまでを飲み干して、腹に足りぬ場合に備えて作った稲荷寿司用の飯を、甘く煮含めた油揚げに詰めた。月見ときつねで迷うとき、うどんは月見にして稲荷寿司を供とする。飯に紅生姜を混ぜると米に対する酢の配合と分量に迷いが生じない。色合いとて自ら桜色、記号の思索に色が及んで花が咲く。


eggtreeplanet

いつかの私が探したときには見つけることができなかった桜の木。しかし今の私は至極簡単にその木にたどり着くだろう。 ゆ「繋がれた部屋」より

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