6.You make me feel so bad
「正しい煙草の吸い方を私は聞いたのだよ」
「それで? それでドクターは喫煙者だと? 吸わないのに?」
まあ、ずいぶん上等なお答えだこと。そう私は付け加えてやった。
ここのドクターはどいつもこいつもぼんくらばかりで困る。仕事とはいえ、きつい。それで派遣先の変更手続きをしようかと考えて、結局はやめた。指針士などどこへ行っても同じであることなど、これまでを振り返れば分かる。それでも派遣先が変わるたび思うのだ、指針士の専攻を別に学び直そうかと。
「ミスどうかなさったか?」
「いいえ、何も。質問に答えるのはドクターですよ。それと、ミスと呼ぶことと呼ばないことについては先日回答を得られ、他のカテゴリに代わる名詞を考えると、そのように話していましたが、その後は?」
「二つの扱いを許してくださるのか、ミス」
ぼんくらほど考えたがる。しかしこのぼんくらどもは国に保証されている。私はその保証に国から遣わされた大勢のうちの一人というわけだが、それゆえ私たち指針士も国の保証対象だ。それはどの国においてもそうで、国連で決議されている。記号系統学者とそれを先導する指針士はついを成し、人類の絶対選択肢であることが公だ。
「二つの扱い? ええ、もちろん。それで、煙草を動詞と捉えますか、それとも名詞と?またはそれら全てとして煙草としますか? それによって、名詞としてカテゴリを変えて言語を新たに定義することも可能かと?」
「ミス、ミス、ああ、ミス。そうだ、そうだ、それならば、煙草の教えをコンテンツに落とし込むことができるかもしれない。ミス、いや、ミスター、ありがとう。早速仕事が始められそうだ」
「ドクター、ドクターはミセスという言葉をご存知ですか?」
「そうか、そうか。そのような言葉をすっかり忘れていたぞ」
「ええ、移行にはミスターXが必要かと」
お尻の重いドクターではあるが、まだましな方。扱うコンテンツが民俗学であるというのは、あるバイヤスを使えば無限に回答を得る。学者が記号系統学に吸収されざるを得ない世界においては、そのような簡素ソサエティも外側から与えられるということが必要不可欠なのだろう。要するに我々は内包世界を育むドクターたちの社交を担っているに過ぎない。
「お礼にこれを残していきたいが、可能かね、ミセス」
「ええ、可能です。物品を受け取ることは規定に反しません。指針中の物品の受け取りに関しても許可されています」
机に煙草を置いて、ドクターは出て行った。
次の指針は昼食後か。ふう、疲れる。部屋を出たドクターは今ごろ手に取った煙草をミセスは吸うだろうか、吸わないだろうか、恐らくそのようなくだらない夢想に耽り、分岐点を考えていることだろうが、ミスだのなんだとくだらぬ名詞に時間を費やしているから、分岐点を間違えるのだ。まあ、指針士ではないのだから仕方ないが、その回答は簡単にして簡潔で、指針資格の初歩中の初歩、ポータルの問題だ。軸点の相違。自他の互換とその配置。量子的ドラマ性はすでに廃れたのだ。そこに煙草がある、手に取るか取らぬかなど、そのような範疇に分岐点を設けるだけではつまらぬだろうに。ミス、ミセス、ミスター、そしてミスターX。
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