12.きらきら武士
「この穴は?」
「うさぎ穴です」
「蜂房に見えるが」
「あたしが入ればうさぎ穴です。なんせあたしはうさぎなもんでして」
「私が入れば・・・・・・」
「武士が入れば、この穴の全ては武士のものであります」
その狭い穴に入ろうと手を掛けて、ふいに右を見ると、多くの私がやはり穴に入ろうと穴に手を掛けていた。左も右に同じで、全ての穴を、今、私は攻める者らしかった。
這いつくばって穴を抜け左右を見ると、やはり私たちが同じように穴から顔を出し、そこへ夜風が駆け抜けた。まるで嘶く馬のような風であった。そうして私たちは空を見上げた。空には満天の星。
「うさぎよ、この星空は穴から顔を出した私の一人一人に用意されているのか」
うさぎはうなずいた。
「一つの空としてあなたを束ねる。武士よ、その覚悟がおありか」
うさぎが言うと、星が瞬いた。すると彼岸から此岸へ何か産まれると思い、見上げたまま穴より飛び降りた。
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