1.やさしい哲学 3 / 5



「摂理を考えてごらんよ」あるとき主義者の一人が情報を提示してくれた。「グリッドですか?」質問に対し聞き返すと、その主義者は目を細めゆっくり首を振った。「物理現象の話をしてはいないよ。私は懐古主義者であり修辞的な人間なんだ。確かに共通概念としてグリッドという物理現象を定礎と認識しなければ、我々は接点を持てないし世界は消えてしまう。けれどそんなありきたりな一般教養を話し合うつもりはないだろう?」うなずいてみせると、主義者は軽く目をつむった。おそらくはビジョンを見ている。ビジョンの数が多い者と話すのは非常に面白い。これは概してビジョンの数という物理現象なのだが、多くの映像のうちより一つしか持ち帰ることのできない不確定に要約された断片であるから、ビジョンの数だけより不確定に何事か広がる。

 「閉鎖されたコンテンツが無数にあるのは知っているかね?」質問にうなずくと相手もうなずいた。「うん。それは裾野を拡張させるための語呂合わせで、プログラムだ。世界の全ては記述され、誰もがそうしようと思えば世界の全てを知ることができる。しかし、そこには一面光のコンテンツしかない。それでは世界的バグに対応できないではないか」「だから閉鎖を?」と言ってから、主義者が懐古二元のビジョンを見ているのではないかと気づいた。「閉鎖したコンテンツはそのままただのボックスとして維持される。エネルギーに換算すれば──」「不可逆的可能性」ゆったりとした主義者の言に先んじて答えると、そうだねと返った。「そうだね、それが拡張だ」そこまで聞いて、これは内包二元の話と捉えていいのかと尋ね、主義者はそれに笑んだ。おそらくは、先日の螺子・懐古二元に降臨し持ち帰ったビジョンと比較しながら内包二元を論じているのだろう。そう思ったのは、自分が持ち帰ったビジョンに似た輪郭をたどっていると感じたからだった。自分の持ち帰ったビジョンはもしかすると主義者のそれに前後する一コマだったかもしれない。そのように思考を巡らせていると、主義者は続けた。

 「摂理からグリッドへは直結するようだけれども、例えばそこには閉鎖されたコンテンツが無数にあって、ボックス化したコンテンツは拡張のための伸び代であると同時に、閉鎖することで情報をつなぐ普遍性に転じる。しかし閉鎖される前にそのコンテンツにアクセスした者もいて、普遍性は方向性を持っている」そこでこちらの返事を待った。 「アナグラムですね」と答えると主義者はうなずいて続けた。「逆に言えば、閉鎖するものを意図すれば世界は指標を持つ。そのうちの一つが時間だ。これは物理的にも修辞的にも摂理に近く、またグリッドそのものであると言ってもいい」そう聞いて立ち並ぶコンテンツを思い浮かべた。時間の概念形態は多重に存在する。それを実際に思考するには膨大なコンテンツから情報を引き出さなければならない。しばし黙って考に耽るとそれを読み取ってか、そうなんだ、と主義者はため息をついた。そしてさも楽しそうに笑った。 「時間のコンテンツはそもそも膨大なコンテンツを内包するコンテンツなんだ。内包二元はそのように成立している。見た目にもそうだね。閉鎖しても一面光のコンテンツの様相を変えていない。それ自体内包だ」「五次元ですか」「一般教養的に言えばね。厳密に言えば、五次元に対応する次元と五次元を合わせて内包するということだよ」


eggtreeplanet

いつかの私が探したときには見つけることができなかった桜の木。しかし今の私は至極簡単にその木にたどり着くだろう。 ゆ「繋がれた部屋」より

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